WebデザイナーがSES企業で経験を積むべきかどうかは、多くの人が悩む点です。
SES企業での就業には、技術スキルを磨くための多くの機会がある一方で、良い案件を担えるかどうかの疑問を持つことも少なくありません。
この記事では、
- WebデザイナーがSES企業で働くメリットとデメリット
- 未経験のWebデザイナーの就職先としてSES企業がおすすめされない理由
- ホワイトなSES企業とブラックなSES企業の見分け方
について詳しく解説します。
この記事を読むことで、良い企業の見分け方を理解できるでしょう。
そもそもSESとは?請負契約や派遣契約との違いは?
SESとは、お客様からITサービスを提供するために契約する形態の一つです。SES、請負契約、派遣契約の違いを理解することは、Webデザイナーとしてどのように働くべきかを考える上で重要です。
下記表で契約形態の違いを比較しています。
SES | 請負契約 | 派遣契約 | |
提供内容 | 労働時間 | 依頼に対する成果物 | 労働時間 |
成果責任 | なし | ある | なし |
働く場所 | 客先 (リモートの場合もある) | 自社または客先 (リモートの場合もある) | 客先 (リモートの場合もある) |
指揮系統 | 自社 | 自社 | お客様 |
また、一般的に受託というのは請負契約のことを指します。
WebデザイナーがSES企業で経験を積むメリットとデメリット
SES企業で経験を積むことには、メリットとデメリットの両方があります。
入社する企業によって状況が大きく異なるため、一概に良し悪しを決めるのは難しいです。
これから紹介するメリットとデメリットを把握し、自分が興味を持っている企業が当てはまるかどうかを確認することが重要です。
メリット
5つのメリットを紹介します。
- 人脈が広がりフリーランスを目指しやすい
- 引き抜きなど転職のチャンスがある
- 人間関係の悩みが減る
- 自分の希望通りに案件にアサイン、退プロできる場合もある
- 残業が少ない可能性も高い
人脈が広がりフリーランスを目指しやすい
SES企業で働くことで、フリーランスを目指す上で有利になる人脈を築くことができます。
SESの場合、請負契約と比べてお客様と一緒に過ごす時間が圧倒的に多く、実際にクライアント先に常駐して共に作業を行います。
そのため、お客様と同じ企業の社員のような関係性が築かれることも珍しくありません。
日常的に一緒にランチに行ったり、飲みに行ったりする機会も増え、自然と人脈が広がっていきます。
筆者自身もSES企業で働いていた際に、クライアント先の社員や他のSES企業から来ている社員と仲良くなり、よく食事に行くことがありました。
このような人脈は、将来的にフリーランスとして働く際に非常に役立ちます。
人脈を作る機会が多いことは、フリーランスを目指す上での大きなチャンスと捉えることができます。
引き抜きなど転職のチャンスがある
SES企業で客先で働いていると、請負契約に比べて転職のための引き抜きの声がかかることが多いです。
SESの特徴として、客先の方と人間関係が築きやすく、技術力を間近で見せることができるため、引き抜きにつながりやすいのです。
基本的には直接引き抜くことができない契約を結んでいる企業が多いですが、大手企業では、こういったケースに備えて子会社を用意し、一時的にそこに入社させた後で正式に引き抜くといった例もあります。
実際に筆者も、常駐していた客先で半年ほど働いた際、自社よりもはるかに良い待遇で引き抜きのオファーをいただきました。
SES企業での経験は、思わぬ転職のチャンスを得ることにもつながるかもしれません。
人間関係の悩みが減る
請負契約の場合、基本的には自社の社員でチームを組んで仕事をすることが多く、もし嫌な同僚がいた場合は、どちらかが異動するまで我慢しなければならないことがあります。
しかし、異動はそう簡単には起きないため、そのような人間関係の悩みが長期間にわたって続くことが少なくありません。
このような状況は、職場の雰囲気に悪影響を与えることもあり、ストレスの原因となることが多いです。
一方でSESの場合、一定の期間で現場が変わり、その度に一緒に働くメンバーも変わるため、人間関係の悩みが比較的少なくなります。
新しいプロジェクトに参加するたびに新しい人々と関わることになるため、合わない人とずっと一緒に働く必要がないのです。
人間関係が原因で退職する方は多いため、この点はSES企業で働く上での大きなメリットと言えるでしょう。
また、短期間での現場変更があることで、新しい環境に適応する柔軟性も身に付きやすく、他の現場でもスムーズに人間関係を築けるようになるという副次的なメリットもあります。
自分の希望通りに案件にアサイン、退プロできる場合もある
企業によっては、自分が学びたいスキルや得意なスキルを中心に案件を探してくれるホワイトなSES企業もあります。
例えば、ホームページの制作よりもUI/UXのスキルを磨きたいという要望がある場合、そのような案件に配属してもらえることもあります。
自分の希望に合ったプロジェクトにアサインされることで、スキルアップの方向性を自ら選択できるのは大きなメリットです。
さらに、嫌な案件にアサインされてしまった場合でも、すぐに抜けるのは難しいことが多いものの、3ヶ月から半年ほどでその案件から退プロできることもしばしばあります。
どの程度融通が利くかは企業次第ですが、ある程度の柔軟性があることはSES企業で働く上での魅力の一つです。
残業が少ない可能性も高い
SESというのは、基本的に準委任契約という契約に準じています。
準委任契約とは、労働力や労働時間に対して報酬を受け取る契約です。
ただし、アルバイトのように働けば働くほど報酬が増えるというわけではなく、契約締結時におおよその工数が決まっています。
通常、1人月にあたる160時間を基準として契約し、20時間程度の基準時間という幅が設定されていることが多いです。
もしその基準時間を超えて働く場合には、超過時間として通常の単価とは別に追加料金が発生し、一定の割合が上乗せされた金額が支払われることになります。
そのため、お客様としても残業をさせたくないと考えることが多く、結果的に残業をしないようにという状況が生まれやすい契約形態となっています。
ただし、どうしても必要な場合には追加料金を払ってでも働いてもらうこともあるため、100%残業がないとは言えませんが、比較的残業が少ない傾向にあるのは確かです。
デメリット
続いてデメリットを5つ紹介します。
- 案件ガチャ要素がどうしても生まれる
- 評価制度に不満が出やすい
- 待機期間の給与制度がひどい場合もある
- 自社への帰属意識や交流が減りがち
- 環境の変化が多い
案件ガチャ要素がどうしても生まれる
会社員である以上、完全に自分で担当する案件を決めることはできません。
ある程度希望を伝えることはできても、完全に制御することは難しいです。
そのため、スキルが身につかない案件や炎上案件、商流が低すぎて上記のメリットがほぼない案件にアサインされることもあります。
さらに、プロジェクトの内容が自分の成長につながらないものである場合、モチベーションの低下やキャリアの停滞に直面するリスクもあります。
ただし、これはSESに限らずどの会社でも配属ガチャというものがあるため、SES固有のデメリットとは言えません。
たとえWeb制作会社に就職しても、自分がやりたい案件を必ずしも担当できるわけではなく、同じような案件ばかりを担当してスキルが伸ばせないこともあります。
また、特定のスキルに特化した案件にしか携わる機会がない場合、幅広い経験を積むことが難しくなることもあります。
その結果、自分のスキルセットが偏ってしまい、将来的にキャリアの選択肢が狭まる可能性もあります。
評価制度に不満が出やすい
SES企業では、案件先での頑張りが評価に反映されにくいという不満が出やすいです。
案件先での業務内容が多岐にわたるため、自社の評価制度に適合しないケースが多く、その結果、どれだけ努力しても正当に評価されないことがあります。
このような状況は、モチベーションの低下につながりやすく、SES企業で働く上でのデメリットの一つです。
待機期間の給与制度がひどい場合もある
SESは、お客様から案件の依頼を得て初めて成立するビジネスモデルです。
自社サービスを持たないため、案件のアサインがなかなか決まらないこともあります。
特にIT業界では人材不足と言われていますが、それは上流工程を担当できる人材のことであり、簡単な作業しかできない人材については依然として供給過多の状況です。
そのため、案件が決まるまでの待機時間が発生することがあります。
企業によっては、この待機期間中の給与が削減される場合もあるため注意が必要です。
この削減はWebデザイナー自身の責任だけでなく、営業担当の努力不足も影響することがあります。
そのため、就業前に就業規則を確認し、待機期間中の給与に関する取り決めをしっかり把握しておくことが重要です。
筆者が以前在籍していたSES企業では、新卒社員が最大で半年間待機させられている例を見たことがあります。
その企業では待機中も給与が支給されていましたが、仮に待機期間中に給与が出なかった場合のリスクを考えると非常に不安です。
自社への帰属意識や交流が減りがち
SESの特徴として、自社の社員よりもお客様先の社員と過ごす時間が長くなりがちです。
そのため、自社に戻る機会が少ないこともあります。
定期的な全社会や交流会などがない企業では、どちらが自社なのか分からなくなることもよくあります。
自社とのつながりを重視したい場合は、この点について注意が必要です。
環境の変化が多い
SESの案件は通常3ヶ月から半年程度の期間で行われます。
案件が更新されて数年間同じ場所にいることもありますが、そのまま終了することもあります。
特に更新の概念がない案件の場合、年に2回から3回程度案件先が変わることがあり、このように環境が頻繁に変化します。
そのため、コミュニケーションをとる相手や出社場所が常に変わり、それに伴い業務の進め方や周囲のメンバーも変わることになります。
こうした環境の変化に順応することが難しいと感じる人にとっては、大きなデメリットとなるでしょう。
未経験のWebデザイナーの就職先としてSES企業がおすすめされない理由
未経験のWebデザイナーにとって、SES企業は就職先としておすすめされないことが多いです。
特に若い世代の間では、自社サービス企業>請負>SESという序列で見られる傾向が強くなっています。
この背景には、2000年前後のITバブル時期にSES企業がブラック企業というイメージを持たれたことや、多重下請け構造が生まれやすい業界の特性が影響しています。
しかし、実際にはこのイメージは一部誤解されています。
まず、ブラック企業というイメージは20年以上前の話であり、現在ではその多くが払拭されています。
一方、多重下請け構造は今も存在していますが、上流の企業であればSES企業でも良い企業であることが多いです。
給与が低いという点も、多重下請け構造の下の商流にいる企業に見られる特徴です。
例えば、4次受けの企業の場合、手数料が複数回抜かれるため案件の単価が下がり、結果として利益も減少し、従業員の給与も低くなります。
しかし、SES企業として有名な富士ソフト株式会社の平均年収は514万円とされており、日本の平均年収と比べても比較的高い水準にあります【Openwork調べ】。
また、案件ガチャと呼ばれる配属の運次第の要素についても、SESに限った話ではありません。
自社サービスや請負の企業であっても、配属先が自分の希望に合わないケースは少なくありません。
SES企業でも、希望に応じた案件にアサインしてくれる場合も多いため、一概にSES企業が悪いわけではないのです。
【結論】Webデザイナーの就職先としてSES企業は選んではいけないのか
ホワイトなSES企業であれば、Webデザイナーとしての成長機会やビジネス的なチャンスが多く、就職先としておすすめできる選択肢と言えます。
特にキャリアアップを重ねていきたい方や、将来的にフリーランスのWebデザイナーを目指したい方にとっては、大きなメリットが得られるでしょう。
一方で、ブラックなSES企業はデメリットが多く、就職先としては避けたほうが良いです。
給与や待遇が低く、働き方の面でも過酷な環境が待っていることがあるため、注意が必要です。
しかし、これらの違いは求人情報だけでは判断が難しいため、採用担当者との面接やヒアリングを通じて、企業の実態を確認することが重要です。
最終的に、SES企業を選ぶかどうかは、個々のキャリア目標と企業の実態次第です。
自分に合った環境を見つけるためにも、情報収集を怠らないことが成功への鍵となるでしょう。
ホワイトなSES企業とブラックなSES企業の見分け方
ホワイトなSES企業とブラックなSES企業を見分けるためには、いくつかのポイントを確認することが重要です。
例えば、商流の透明性や給与体制、評価制度の明確さ、社員との交流の機会などをチェックすることで、その企業がどのような環境を提供しているかを理解することができます。
商流を確認する
SES業界では、多重下請け構造が一つの闇とされています。
この構造を避けるためにも、できるだけ商流が高い企業を選ぶことが重要です。
多重下請け構造では、案件の単価が下がりがちで、その結果、給与水準が低くなりやすいため、商流が高い企業に所属することが理想的です。
理想的にはすべてが一次受けの案件であれば良いですが、それはプライム企業に限られます。
そのため、一次受けが3割程度で、その他が二次受けまでの企業であれば、安定した案件と給与が期待できるため、問題ないでしょう。
また、現在の案件の商流の割合を確認することも大切です。
もし全体の5割以上が三次受け以下であれば、その企業はブラックな可能性が高いため、就職を控えたほうが良いでしょう。
特に商流が低い場合、案件の内容も安定しないことが多く、キャリア形成においてマイナスとなるリスクがあります。
商流が高い企業であれば、プロジェクトの質や働く環境も比較的良いことが多いので、しっかりと調査することが重要です。
案件のアサイン方法を確認する
SES企業で働く際、案件のアサイン方法について事前に確認することが非常に重要です。
営業担当と事前に希望する職務内容をすり合わせ、希望に近い内容の案件を紹介してもらえるのか、それともランダムに面談が設定されるのかを確認しましょう。
また、既存のWebデザイナーがどのような常駐先で働いているのか、どのような案件に関わっているのかについてもヒアリングしておくことが必要です。
特に、システム開発系の案件が多い企業では、Webデザイナーとしてアサインされてもフロントエンジニアのような役割を求められる可能性があります。
そのため、Web系の仕事の割合や、サービスのUI/UX系の案件がどの程度あるかを確認することは必須です。
これにより、自分がやりたい分野でのスキルアップが可能かどうかを判断できます。
評価制度について確認する
SES企業での就業を検討する際、評価制度について事前に確認することも重要です。
企業がどのように評価制度を作成しているのか、案件先によって評価基準が異なるのかなど、できる限りヒアリングを行いましょう。
評価制度についてはヒアリングしにくい内容かもしれませんが、将来のキャリアを考える上で大切なポイントです。
そもそも、IT業界の評価制度は「これができたから良い」という明確な基準を設けることが難しいと言われています。
これは、IT分野において扱う技術が非常に多岐にわたり、全員を同じ基準で評価することが難しいことや、売上を直接算出する業務ではないためです。
そのため、企業ごとにどのような評価項目があるのか、どのような形でスキルや成果を評価するのかを事前に確認し、納得のいく評価を受けられる環境かどうかを見極めることが大切です。
チーム参画と個人参画の割合
ブラックなSES企業では、1人で案件に参画することが多いです。
しかし、チーム(5名以上)で参画している案件が多い場合、ホワイトな企業である可能性が高いと考えられます。
なぜなら、5名以上の参画人数を確保しているということは、お客様とも良好な関係を築いており、信頼されているため、無理な働き方を強制されることが少ないからです。
さらに、チームで参画することにより、帰属意識が生まれ、常に相談相手が確保できる環境になります。
孤立することなく、他のメンバーと助け合いながら働けるため、メンタル面でも安定した働き方が可能です。
現在アサインされている案件の体制や、1人での参画割合については、事前にヒアリングして確認しておくことをおすすめします。
【次の一歩】Webデザイナーとして働く上での条件や希望を定めよう!
ここまでの説明を通じて、基本的にホワイトなSES企業であれば問題が少ないことは理解できたと思います。
しかし、SES企業で働くことのリスクを考えると、制作会社や自社サービスのデザイナーとしてWebデザイナーの就職先を探す方が健全だと感じる方もいるでしょう。
また、SES企業では自分の希望するプロジェクトに参画できないこともあり、それがキャリア形成において障害になると感じることもあるかもしれません。
残念ながら、SESのデメリットで説明した内容は、これらの企業でも当てはまる可能性があります。
そのため、Webデザイナーとして働く上で、どのような働き方を望むのか、どのような待遇が欲しいのか、身につけたいスキルは何かを、できる限り具体的に言語化することが重要です。
また、どのようなプロジェクトに関わりたいか、どのようなチームで働きたいかといった点も考慮に入れるべきです。それに基づいて、自分に合った就職先を見つけることが、将来のキャリアを成功させるための大きな一歩となります。