移動平均法を使った棚卸評価のやり方とは?メリット・デメリットや他の方法を紹介
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初回公開日:2021年10月28日
更新日:2022年03月01日
移動平均法って何?
会社の利益を把握するために売上原価を求めるのは必要な業務であり、売上原価を求める方法の1つが移動平均法です。
移動平均法は商品を仕入れる度に平均単価を算出し、その単価を売上原価として棚卸資産の評価額に設定します。棚卸資産は期末に評価をすれば良いというものではなく、常に把握をしていることが理想的です。
移動平均法を用いれば、仕入れを行う度に平均単価を算出することで、その時の棚卸資産の評価額を求めることができ、評価額が変わればそれに応じた施策を行うことができるでしょう。
移動平均法のニーズ
企業の利益を把握する上で原価管理はとても重要です。原価管理を疎かにすると原価に関する無駄に気付かなかったり、人件費等のサービス原価が分からなかったり、売価を適切に設定できなかったり、損益分岐点が不明瞭になってしまったりという可能性があります。
このような問題を抱えないためにも、移動平均法を活用して原価を正確に把握することが必要と言えるでしょう。
移動平均法と総平均法はどう違う?
移動平均法も総平均法も、原価全体を在庫の個数で割って平均を出し1つ当たりの原価を求める平均原価法の1種です。
移動平均法と総平均法の目的は原価を平均で算出することで棚卸資産の評価とする点で同じと言えますが、移動平均法は仕入れを行う度に計算を行う方法であるのに対し、総平均法はある一定の期間をまとめて計算する方法であるという点で異なります。
移動平均法のメリット5つ
より高い精度で利益を計算することができる移動平均法には、常に評価額を把握できたり柔軟な経営戦略を描けたり、様々なメリットがあります。
ここでは移動平均法のメリットについて5つ見ていきましょう。
1:常に評価額を把握できる
移動平均法を使うメリットは、棚卸資産を仕入れる度に計算を行うため、常にその評価額を把握できることにあります。
移動平均法を使わなければ、前年度の実績や担当者の感覚から「売上原価はだいたいこれくらい」という曖昧な評価額になりやすく、妥当な販売戦略は立てにくいです。
移動平均法を使って常に評価額を把握できることで、適切な販売戦略を立てることができるようになるでしょう。
2:柔軟な経営戦略を描ける
移動平均法を用いて常に評価額を把握できるということは、柔軟な経営戦略を描けるということにもつながります。
移動平均法を使わずに前年度の実績などから曖昧な評価額を基準に考えると、市場変化が激しかったり、仕入れ額に変動があったりする業種では致命的な問題になる可能性があります。
しかし、移動平均法で常に評価額を把握していれば、評価額の変動にも気付くことができ、柔軟な経営戦略を描くことが可能でしょう。
3:迅速な経営判断ができる
移動平均法で常に評価額を把握していれば迅速な経営判断ができるということにもつながります。
商品の仕入れ価格が上がると、在庫数は同じでも棚卸資産の評価額は上がりますが、その際に販売戦略を変えずに同じ価格で商品を売ってしまうと利益が減ってしまいます。
移動平均法を用いて常に評価額を把握できれば、変化に応じて販売価格や販売数を調整するなど、迅速な経営判断ができるでしょう。
4:商品の原価が把握できる
移動平均法は仕入れをする度にその時点での受け入れ資産と在庫資産の平均原価を算出するため、商品の原価が把握できます。
移動平均法は仕入れをする度に平均原価を算出するため、常に商品の平均原価を把握することができ、販売業績の把握や管理を常に行うことが可能です。
5:損益分岐点がはっきりと分かる
損益分岐点とはかかる費用を収益でカバーして損益がゼロになっている点で、これ以降は利益が出るという売上高のことです。
移動平均法を使って常に原価管理をしていることで、この損益分岐点がはっきりと分かるというメリットがあります。
損益分岐点を原価管理でしっかり把握していることで、事業の採算性が判断できるでしょう。
移動平均法のデメリット3つ
企業の利益を把握するために重要な原価計算をより正確に行うことができる移動平均法ですが、メリットが多い反面デメリットもあります。
ここでは移動平均法の3つのデメリットについて解説します。
1:計算数が多いと担当者の負担が増える
移動平均法では仕入れの度に計算をしなければならないため、取り扱う商品の種類が多く計算数が多いと担当者の負担が増えるというデメリットがあります。
仕入れ担当者がいる大きな企業では大きな問題にはならないでしょうが、担当者のいない中小企業の場合は他の仕事と兼務することになるため、担当者が業務量過多となってしまう可能性があるでしょう。
2:一時的な取り組みでは効果が出ない
移動平均法は仕入れの度に計算をして常に評価額などを把握することでその効果を発揮するものです。
そのため、一時的な取り組みでは移動平均法の効果が出ません。これから移動平均法の導入を開始する場合には、継続的に取り組む必要があるということに注意しましょう。
3:計算間違いの影響が大きい
移動平均法では取り扱う在庫の種類が多いほど計算が複雑になります。計算に間違いがあると、次の仕入れの際の計算にも影響を及ぼして、間違った単価が間違ったまま更新され続けてしまうため、注意が必要です。
一度計算間違いをすると大きな影響を与えることになってしまうため、十分に気を付けて計算をする必要があることを理解しておきましょう。
移動平均法の計算のやり方
ここまで移動平均法のメリットやデメリットについて紹介してきました。では、移動平均法の計算はどのように行うのでしょうか。
ここでは移動平均法の計算を公式のやり方と商品有高帳を用いたやり方に分けて解説します。
公式のやり方
移動平均法では取り扱う商品の種類が多いほど計算が複雑になります。しかし、商品の数を1つと想定すれば比較的簡単に計算をすることが可能です。
移動平均法の公式では、(受入棚卸資産取得原価+在庫棚卸資産金額)÷(受入棚卸資産数量+在庫棚卸資産数量)で平均単価を求めることができます。
受入棚卸資産取得原価は仕入れた時点での仕入金額、在庫棚卸資産金額は仕入れた時点での在庫の金額です。
つまり、移動平均法は仕入れをする時点での評価額に仕入れた分を足して、仕入れの度に平均単価を計算し直すことになります。
商品有高帳を用いたやり方
商品有高帳とは店舗などの在庫状況を記録する補助簿のことで、仕入れや売上がある度に取引日や取引内容、受入又は払出、残高の欄にそれぞれ数量、単価、金額を記入していきます。
この時に注意が必要になるのは、残高に記入する単価です。平均移動法では仕入れの度に平均単価を計算し直すため、仕入れをした時点で平均単価を計算して残高の単価に記入します。
商品有高帳を見れば「この日に在庫がとれだけあったのか」がすぐ分かるため、管理が簡単になるでしょう。
移動平均法以外の評価のやり方
棚卸資産を評価する方法は移動平均法の他にも、先に仕入れたものから出す方法の先入先出法や、最後に仕入れたものから出す方法の最終仕入原価法などがあります。
ここでは、移動平均法以外の評価のやり方として、この2つの方法をご紹介します。
先に仕入れたものから出す方法
まず紹介するのが先に仕入れたものから順次払い出したと考えて在庫の金額を算出する先入先出法という方法です。
実際に先に仕入れたものから順番に払い出すことが一般的と考えられるため、実際のものの流れと一致することが多いというメリットがあります。
また、期末の在庫が最終仕入数より下回っていれば、後述する最終仕入原価法と同じ計算方法になり、簡単に算出することが可能です。
一方で期末の在庫が最終仕入数より上回っていれば、期末の在庫数を満たすまで遡って単価を調べる必要があり、計算が煩雑になるというデメリットもあります。
最後に仕入れたものから出す方法
次に紹介するのは、一番最後に仕入れたものの単価を使って在庫の金額を算出する最終仕入原価法という方法です。
この方法は税務上の法定評価方法となっているため、税務署に届け出を提出しない場合には自動的にこの方法で評価をすることになります。
期末の在庫に対して期末により近い最終仕入単価を掛けて在庫金額を算出するため、実務的に簡単で便利な方法です。
しかし、期末の在庫が最終の仕入数を上回る場合、期末の在庫金額と払出金額が実際の金額を反映しません。そのため、実際の価格を反映しない場合があるというデメリットがあります。
移動平均法を使って棚卸資産を評価しよう
移動平均法を使った棚卸評価の方法やメリット、デメリットなどを紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。
移動平均法は棚卸資産の評価を常に把握できる評価方法です。常に最新の評価額を把握できることで、状況判断を素早く行うことができ、経営戦略に反映させやすくなるでしょう。
この記事で紹介してきた内容を参考に、移動平均法を使って棚卸資産を評価し、企業経営の質を上げましょう。