コストリーダーシップ戦略とはどのようなものか|確立する要素と成功事例を紹介
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コストリーダーシップ戦略とはどのようなものか|確立する要素と成功事例を紹介

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コストリーダーシップ戦略とはどのようなものか|確立する要素と成功事例を紹介

記載されている内容は2021年09月24日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。

また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。

初回公開日:2021年09月24日

更新日:2024年05月31日

コストリーダーシップ戦略は競合優位性確保に役立つと言われており、興味のある方も多いのではないでしょうか。この記事では、コストリーダーシップ戦略を確立する要素と成功事例について紹介していきます。コストリーダーシップ戦略を知りたい方はぜひ読んでみてください。

コストリーダーシップはどのような戦略なのか3つ

コストリーダーシップ戦略とは、価格の優位性を保つために設備投資や販売促進費用を削減する企業の基本戦略の1つです。

提唱者のマイケル・ポーター博士(経営学)は、基本戦略の軸は「競争優位性」と「ターゲット」としています。実現するための戦略とは、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つです。

企業が全てを同時に実践することは困難であるため、自社に適した1つを選びます。

1:安売りとの違い

コストリーダーシップ戦略の価格は、コスト削減システム構築により実現した低コストであり、販売価格だけを下げた安売りとは異なります。

安売りは、製造コストを変えず売値だけを下げる手法です。利益率を低減し、企業の収益を悪化させるでしょう。

コストリーダーシップ戦略は、長期的視野に立って構築したシステムです。製造コストを削減する様々な施策により、高品質・低価格を実現し、利益を確保します。

2:差別化戦略

差別化戦略とは、特色あるサービスや製品により、業界内で独自の地位を築く戦略です。

差別化戦略は、ブランドイメージや製品設計、技術力による高品質の製品開発、顧客サービスなど全てを差別化し、販売価格は適正価格で対応します。

目的はターゲットの満足向上であり、低コストを目指さない点がコストリーダーシップ戦略との違いです。独自の地位を確立すると、価格競争から脱却できるでしょう。

3:集中戦略

集中戦略とは、特定のターゲット獲得を目指した経営戦略です。

目的は限定したターゲットのニーズに応えることであり、獲得すれば高収益を得られます。大規模市場ではないため、中小企業でも可能ですが、対象が少なすぎると事業として成り立ちません。

リピート需要があれば安定経営に役立ちますが、リピート購入がない製品やサービスは新たなターゲット探しが常に必要でしょう。

コストリーダーシップ戦略で優位性を確立する7つの要素

コストリーダーシップ戦略で競合企業よりも優位性を確立するためには、要素を押さえた計画策定がポイントです。

コストリーダーシップ戦略は、短期間で準備することは難しいでしょう。現在の自社の強みの把握と赤字覚悟の投資も行うため、企業内での意識共有や組織の再構成など息の長い活動が重要です。

コストリーダーシップ戦略に欠かせない、それぞれの要素についてご紹介します。

1:人件費や固定費を削減し優位性を狙う

低価格製品を提供するため、人件費や固定費など製造コストを競合企業より削減します。

製造コスト削減手法として、人件費や固定費は定番でしょう。単なるコストカットではなく、競合企業よりも低い水準か業界の平均以下程度を目指します。人件費の抑制は、社員の士気低下や有能な人材の流出などデメリットも大きいからです。

結果を急がず、丁寧にチェックし、企業経営を見直しましょう。

2:自社独自の技術を活かし優位性を狙う

独自技術を活用した優位性の確立は、新規参入や代替品の対策に有効です。

製品や製造過程の独自性は、コストリーダーシップ戦略の中心的役割を果たします。独自の地位を確立し、新規参入や代替品など低コスト製品への脅威に効果を発揮するためです。

独自技術を守るための費用は、削減できないコストでしょう。知的財産権なども適切に対応し、優位性を損なわない長期的戦略が求められます。

3:労働者の経験によって作業能率・コストの優位性を狙う

労働者の経験を活用した分業化・専業化は、作業能率向上によるコスト優位性の達成要素です。

熟練工や有能な労働者は企業の財産ですが、経験が少ない労働者も1つの業務に集中すると技能習得への意欲を高め、習熟期間の短縮化による生産性向上につながります。

労働者の分業化は、技術の伝承や後継者育成、事業規模拡大時の指導者養成など、構築したシステムとコストの優位性維持にも影響を与える要素です。

4:生産規模を拡大し生産性を上げる

生産規模の拡大は、新しい技術や設備導入による生産性向上を可能にします。

コストリーダーシップ戦略の設備投資は、生産性を高めるための設備の更新です。生産性の低い生産現場では、製造コストの削減はできません。そこで、稼働率を高め、固定費削減可能な技術や設備導入が重要です。

生産規模の拡大は、販売量に適した規模にとどめます。規模拡大に労働環境整備の視点も取り入れると、更に生産性向上に有効です。

5:社内での情報共有・連携で方向性を組織で認識する

コストリーダーシップ戦略を社内で認識し、情報を共有・連携させることも優位性を確立させるための要素です。

企業の経営戦略は、上層部だけでは実現できないでしょう。社内の認識共有は製造コスト低減のための工夫を生み出し、生産性向上をより強力に推進します。

組織内の連携は企業の一体感を高め、従業員の離職防止にも有効です。自社の特徴や理念に沿った導入が一層効果を高めるでしょう。

6:指示系統がわかりやすい組織構造にする

コストリーダーシップ戦略には、製造コスト低減と共に組織構造の変革も重要な要素です。

わかりやすい指示系統は、生産現場の効率化と戦略の浸透や認識共有に役立ちます。責任の所在も明確になり、働きやすい環境づくりと従業員のやりがい創出も可能です。

指示系統をわかりやすくするために、シンプルな組織体制にします。生産現場からのボトムアップも考慮した、風通しの良い組織構築を目指しましょう。

7:材料原価の低減・直接仕入れによって優位性を狙う

材料原価の低減や直接仕入れは、低コスト製造には外せない要素です。

材料原価低減は、一括大量仕入れや直接仕入れのほか、代替品の検討も行います。原料コストの上昇に伴うリスクは、生産効率向上で乗り切るなど製造コスト維持には企業全体の取り組みが重要です。

大量仕入れは、材料市場での優位性を高めるためにも効果を発揮します。仕入れ先とは良好な関係を持ちながら、競合企業との戦いに妥協しない姿勢も必要でしょう。

コストリーダーシップ戦略を活用する3つのメリット

コストリーダーシップ戦略の活用は、利益率や集客力の向上など、優位性によるメリットが主なものです。

市場での優位性は、ブランドイメージを向上させ、更に占有率を高めます。販売量増加は生産規模の拡大と生産性向上を引き出す好循環の創出も可能でしょう。

コストリーダーシップ戦略によって高められた優位性は、競合企業や新規参入企業の脅威となり、益々シェアを拡大します。

1:利益率の向上

コストリーダーシップ戦略による製造過程や組織の見直しは、利益率向上のメリットが得られます。

販売コストの低下を目的にした戦略の結果が、低コストです。製造コストや企業運営にかかる費用に見合った金額であれば、利益率は向上します。

販売量が増えると更に生産性を高め、利益率の向上が可能です。市場占有率が高まれば広告宣伝費など、費用低減効果も増加します。

2:集客力の向上

消費者の「同じ品質であれば低価格で購入したい」心理が、コストリーダーシップ戦略で投入された製品への集客力を高めます。

コストリーダーシップ戦略の製品やサービスは、コスパの良さが特徴です。コスパに敏感な消費者は、インターネットを積極的に活用して情報収集し、比較・検討します。

優位性が高まると、企業から消費者への働きかけは不要でしょう。市場での優位性が更に集客力を向上させます。

3:シェアの拡大

コストリーダーシップ戦略による集客力の高まりは、シェア拡大につながります。

同じ程度の品質で低コストや独自の技術は、一旦市場で認められるとシェア拡大も容易でしょう。興味を持ったターゲットが購入前の調査にインターネットで検索すると話題になり、更に購入者が増加します。

コスパが良く、消費者に選ばれる製品は、一方的な値下げ要求もなく、適正価格でのシェア拡大が可能でしょう。

コストリーダーシップ戦略を活用する3つのデメリット

コストリーダーシップ戦略は、メリットばかりではなくデメリットもあります。

低コスト商品を扱う企業イメージが定着すると、品質の良い高価格商品を販売しようとしても、消費者の反応は冷淡です。また、同一製品に固執すると、次の商品開発への投資やマーケティングがおろそかになり、需要を見誤る可能性も否定できないでしょう。

コストリーダーシップ戦略は効果が表れるまでに時間がかかり、体力のない企業には負担がかかります。

1:企業イメージが損なわれる

コストリーダーシップ戦略による低コスト商品の販売が、低価格ブランドの企業イメージを消費者に植え付けてしまいます。

低コストを歓迎する消費者もありますが、高級ブランドを選ぶ消費者は獲得できないでしょう。反対に、それまで高価格路線だったブランドほど企業イメージが損なわれ、顧客離れを引き起こします。

従来の企業イメージと異なる場合は、低価格ブランドの創設や子会社の設立など周到な準備が必要でしょう。

2:価格競争に巻き込まれる

競合企業もコストリーダーシップ戦略を行うと、価格競争に巻き込まれる事態が起こります。

価格競争は、模倣品や新規参入など、シェア獲得を目指しただけの価格が原因です。優位性を維持するには適正価格を下げなければ対応できず、悪循環が始まります。

また、原材料の値上げによる仕入れ価格の上昇、独自技術を守るための費用など、開発当初と異なる製造コストは、利益圧迫要因として警戒が必要でしょう。

3:コスト・時間を要する

コストリーダーシップ戦略は、低コスト化への投資や社員の育成、市場での優位性獲得にコストと時間がかかります。

経営体力のある大企業は導入できますが、中小企業ではリスクを伴う戦略です。企業の組織改革や共有意識の浸透など、社内システム構築は長期的取り組みになります。

コストリーダーシップ戦略導入前に、自社の規模や事業形態、取り扱い製品・サービス、顧客層にマッチしているかの判断が必要でしょう。

コストリーダーシップ戦略の10個の成功事例

コストリーダーシップ戦略の成功事例は、導入前に分析すると参考になります。

企業は、取り扱う製品やサービスが異なると同じ戦略でも利用できません。幅広い業種の成功事例は、自社にも使える戦略の発見につながり、新たな営業資源発見も可能です。導入する際は、模倣ではなく、自社向けのアレンジも忘れないようにしましょう。

日本国内で活動する企業の成功事例をご紹介します。

1:自社で一元管理することでコスト削減ができた事例

Amazonは出荷から顧客への配送まで一元管理するシステムを構築して、コスト削減を成功させました。

一般的なECサイトは集荷までを担当し、配送は宅配業者へ委託する形式です。配送コストの低減は、販売価格の維持と安易な価格競争回避に効果を発揮します。

プライム会員制は、顧客への差別化競争を取り入れた戦略です。送料無料は、シェア拡大と顧客の囲い込み、新規参入阻止など多くのメリットをもたらします。

2:オペレーションの効率化でコストを抑えた事例

外食チェーンのサイゼリヤは、「製造直販業」を目標に掲げ、食材のオペレーション効率化によってコスト抑制を実現しました。

食材の栽培・収穫、保管と生産地からの輸送、加工・調理は一貫した自社システムで対応しています。コスト削減のほか、価格と品質のコントロールによるコスト変動要因の低減など、外食産業の弱点克服にも有効です。

安心・安全な食材の安定供給は、競合企業との差別化と顧客獲得に役立っています。

3:開発から製造と販売を一貫して自社で行った事例

ユニクロは、商品の開発、原材料の調達、販売とリサイクル活動など、一貫した自社対応で成功させた事例です。

「社会の課題を解決しながら新しい価値創造」を企業活動の基本に置き、自社対応によりコスト削減と衣類販売業としての責任を果たしています。

理念ある行動は他社との差別化にも効果的です。社会活動に意義を感じる顧客の支持を広げ、充実したラインナップによる顧客獲得戦略と相乗効果をもたらします。

4:集中戦略と組み合わせて市場を獲得した事例

通信・情報事業を展開するソフトバンクは、特定のターゲットへの集中戦略と魅力的なサービスで市場獲得に成功した事例です。

新規参入した携帯電話事業で、学生プランなど差別化プランで若い世代の取り込みに成功しました。iPhoneやLINE、PayPayなどのサービス導入は、競合企業との差別化とシェア拡大に効果的でした。

通信事業を基盤にグループ全体で多方面の分野に進出し、プラットフォーム企業へと成長中です。

5:自社の豊富な経営資源を活かせた事例

ヤマダ電機は、店舗で接客する社員の人材育成と独自の流通システム構築のコストリーダーシップ戦略が低コストを実現した事例です。

家電量販店では、取り扱う商品や価格など差別化しにくい業界ですが、経営資源を活用して顧客獲得に功を奏しています。コンビニエンスストアのように売れた商品をすぐに補給し、販促チラシの「他店対抗価格」を宣言したシステムは、顧客の支持を獲得しました。

6:付加価値やコストと質のバランスを保った事例

日本マクドナルドは、おもちゃリサイクルや国際認証を受けた食材調達など付加価値を付与した施策が顧客に支持された事例です。

行き過ぎた価格競争の後、SNSを活用して「安い」から「面白い」企業へとイメージ転換に成功しました。その後、調理過程の見直しにより、コストと品質のバランスを維持した体制作りも導入済みです。

コンビニエンスストアなど、他業種と勝負できる商品など優位性を保つ戦略を展開しています。

7:品質向上で値上げをする差別化戦略をした事例

牛丼チェーンのすき家は、品質向上のために上昇する食材コストや人件費の上乗せ値上げが、差別化戦略を成功させた事例です。

加えて、期間限定メニューに野菜を増やし、顧客をガッツリ系からファミリーや健康を意識する層への拡大戦略に利用しました。また、一定の短い周期での投入が、新メニューを楽しみにする固定客獲得に貢献しています。

値上げに理解を求める企業姿勢が、消費者に受け入れられた点も顧客増加の要因です。

8:キャッチコピーでコスパや集客に成功した事例

「お、ねだん以上。」のキャッチコピーが、ニトリのコスパの良さを消費者に植え付け、集客へと成功させたポイントです。

ニトリは「製造物流小売業」のビジネスモデルを早期に構築し、コスト削減に取り組んできました。企業が成長してから行うコストリーダーシップ戦略を起業時から行い、そのまま成長してきた稀有な存在です。

企画から手掛ける業態、海外での生産拠点など業界の常識を覆して、成長しました。

9:旅行を楽しみたい顧客に向けに低価格が実現できた事例

旅行やホテル事業を展開するHISは、格安航空券の販売でシェア獲得とブランドイメージを構築し、海外を中心にした旅行事業やホテル業界へと事業を拡大した事例です。

格安チケットは、とにかく海外旅行を楽しみたい顧客にマッチしました。飛行機やホテルを利用直前に予約すると格安になるシステムを利用した低コスト商品が、シェア獲得の要因です。

M&Aによる海外拠点づくりなど効率的な組織拡大も、低コストを支えています。

10:低価格で宿泊したい顧客の願いを叶えた事例

スーパーホテルは、ビジネスマンの「ホテルは眠るために利用する」というニーズに特化して顧客をつかんだ事例です。

ビジネスマンのホテル利用の目的を分析し、「安眠」を重視する反面、不要なものには費用をかけない戦略で低コストを実現しました。出発時の手続きの簡略化など、睡眠時間をギリギリまで伸ばせる点も、支持された理由です。

競合企業が嫌う「低価格路線」を敢えて行ったシステムは、顧客の掘り起こしも成功しました。

コストリーダーシップ戦略で競合優位性を確立しよう

コストリーダーシップ戦略とはどのようなものか|確立する要素と成功事例を紹介
※画像はイメージです

コストリーダーシップ戦略は、市場での優位性を確立する目的で、低コスト戦略を推進させるためのシステムを構築する経営戦略です。

市場価格の平均より安い価格で利益を確保できる製品は、製造コストの削減と経験豊かな従業員の効率的な製造工程、組織内の意識共有によって成立します。状況に応じて、差別化戦略や集中戦略も使い分けると効果的です。

成功事例を参考に、コストリーダーシップ戦略で、競合優位性の確立を目指しましょう。

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