カニバリゼーションが起こる要因とは|予防策や対処法もあわせて解説
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初回公開日:2021年09月24日
更新日:2022年03月03日
マーケティングにおけるカニバリゼーションの意味合い
カニバリゼーションとは、英語で「共食い」を意味する単語です。この言葉の意味に基づいて、マーケティングにおけるカニバリゼーションは、「自社製品同士が顧客ニーズにおいて被ってしまい、互いに売り上げに悪影響を及ぼす」という現象のことを指します。
カニバリゼーションは、企業に大きな悪影響を及ぼすため、原因を突き止めた上で回避しなければなりません。
カニバリゼーションが起こる要因
カニバリゼーションは、しばしば「ドミナント戦略」と呼ばれるマーケティング戦略が要因となって起こってしまう現象のことです。ドミナント戦略は、チェーン店がある地域に集中的に出店を行い、地域内のシェアを獲得して競争で優位に立つ戦略のことです。
しかし、このドミナント戦略は、同地域内にある他の自社チェーン店とも競争する必要があります。その場合、チェーン店同士の顧客層も似通っているため、「企業内で同じ顧客層にアピール商品を作る」という事態が起こり、カニバリゼーションが発生してしまいます。
カニバリゼーションによるマーケティングへの影響
カニバリゼーションは、マーケティングにさまざまな悪影響を与えます。カニバリゼーションが起こることにより企業の力が弱まってしまい、経営難に陥ってしまう可能性もあるでしょう。
ここからは、カニバリゼーションによるマーケティングへの影響を2つ、具体的にご紹介します。
競合他社による新たな参入に備える余力が無くなる
カニバリゼーションが起こると、競合他社による新たな参入に備える余力が無くなってしまいます。
自社同士で競争して企業の力が弱っているところに、より消費者ニーズに合った商品を有する企業が来た場合、太刀打ちができなくなってしまいます。結果として競合他社にシェアを奪われてしまい、競争に負けてしまうという事態を招きかねません。
経営資源を無駄にしてしまう
カニバリゼーションが起こると、自社内の競争により経営資源を無駄にしてしまうリスクが高くなります。本来ならば他社と競争するために使うべきであった経営資源を、自社内における潰し合いに使ってしまうのです。
その結果、他社と競うための商品改良などが遅れてしまい、経営に悪影響が出てしまいます。
カニバリゼーションが起こってしまう4つの例
カニバリゼーションは、経営戦略が裏目に出て発生するケースが多く、注意しなければ全く想定していない形で起こることもあります。防ぐためには、過去に起きたカニバリゼーションを把握しておことが必要です。
ここからは、過去に企業が実際に起こしてしまったカニバリゼーションの例を4つ紹介していきます。
1:ステーキ店の場合
カニバリゼーションが起こってしまう1つ目の例として、ステーキ店で発生したケースが挙げられます。好評を博し、経営規模が一気に成長したとあるステーキチェーン店は、ハイペースで出店を行いました。
その結果、同地域内に多数の店舗が展開される事態となりカニバリゼーションが発生してしまい、赤字が生じる結果となりました。
2:ビール業界の場合
ビール業界の場合、新規顧客を獲得するための戦略が、カニバリゼーションを引き起こしたというケースです。ビール業界は普段ビールを飲まない人々を新規顧客として取り込むために、ビールより安い発泡酒を市場に投入しました。
しかし、その結果、従来顧客も安い発泡酒を買うようになってしまったため、カニバリゼーションが発生し、ビールの売り上げが落ちてしまいました。売り上げの増加を狙った戦略がカニバリゼーションの発生に繋がり、裏目に出てしまった例です。
3:ECサイトによる小売店のネット販売の場合
ECサイトによる小売店のネット販売が、カニバリゼーションを引き起こしてしまったケースもあります。本来ECサイトは、日本中のどこからでも注文が可能なため、新規顧客層の獲得などにおいて重要なビジネスとなっています。
しかし、元々小売店を利用していた顧客もECサイトの利便性を取り、ECサイトだけを利用するようになったため、ECサイトの売り上げばかりが大きくなり、小売店の売り上げが下がってしまいました。
4:出版業界の場合
出版業界も、小売店と同じような要因によりカニバリゼーションが発生しています。スマートフォンやタブレットの普及により、電子書籍の需要が高まりました。
しかし、電子書籍の売り上げが大幅に上がった一方で、従来の紙媒体の書籍が売れなくなってしまうという弊害が起きています。
カニバリゼーションの5つの予防策や対処法
カニバリゼーションは、発生してしまうと製品の売り上げ等に大きな悪影響を及ぼし、社員のモチベーションにも悪影響を与えてしまう恐れがあります。そのため、カニバリゼーションは基本的に、回避する必要があると言えるでしょう。
カニバリゼーションの予防策や対処法を5つ、紹介します。
1:企業内での意思疎通を活発に行う
カニバリゼーションを起こさないようにするためには、まず何より企業内における意思疎通を活発に行う必要があります。カニバリゼーションは自社内で商品・サービス等のニーズが被ることによって起こります。
そのため、企業内のコミュニケーションを欠かさないように、ニーズが被らないようにしましょう。
2:同じターゲットの顧客層をSTP分析を使ってずらす
同じターゲットの顧客層をSTP分析を使ってずらせば、カニバリゼーションを回避できます。STP分析は市場の特性を分析し、自分たちが優位に進められる領域を探すことです。
STP分析を用いて顧客のニーズを正確に把握すれば、領域を分担するなどの方法でカニバリゼーションを防げます。そのためには、顧客の目線をしっかり捉えておく必要があります。
3:既存製品のポジショニングがずれる場合
既存製品のポジショニングをずらすことができれば、カニバリゼーションを防げるでしょう。カニバリゼーションは商品同士のポジショニングが上手くいかずに発生してしまうものです。
そのため、ポジショニングが重ならないようにすれば、カニバリゼーションを起こさずにすみます。ここからは、具体的な方法を3つ、紹介していきます。
リ・ポジショニングを活用する
ポジショニングをずらす方法の1つとして、リ・ポジショニングの活用があります。リ・ポジショニングは、「再ポジショニング」とも呼ばれており、既存製品のポジショニングを変えることを意味します。
具体例としては、安価な製品として売っていた既存品をさらに安価にして、高価な新商品と差別化させるなどが挙げられます。
製品の統廃合で不要製品を廃止する
製品の統廃合で不要製品を廃止することで、ポジショニングをずらせます。価格調整等のリ・ポジショニングが困難な既存製品が、新製品とカニバリゼーションを起こす危険性がある場合は、旧製品を廃止してしまうというやり方もあります。
新製品を売り出すためには、従来製品を統廃合する決断も必要であると言えるでしょう。
新商品のターゲットを変える
ポジショニングをずらす方法として、新商品のターゲットを変えるというやり方があります。カニバリゼーションを起こさない一番の方法は、製品同士のターゲットが被らないことです。
ターゲティングを綿密に行い、新商品のターゲットが既存製品と被らないように調整を行えば、カニバリゼーションを防ぐことができます。
新商品の競合との違いを広める
カニバリゼーションを回避するためには、新商品の競合との違いを広める必要があります。企業側がターゲットを差別化したと考えていても、最終的に商品を選ぶのは顧客側です。
あらかじめ顧客層にアピールを行うことで、カニバリゼーションを防ぐことが可能となります。
4:商品企画時にリサーチを行う
商品企画時にリサーチを行うことで、新商品の競合との違いを広められます。リサーチをすると、顧客の意見を聞けるだけでなく顧客側に新商品の存在を認知してもらえるようになるため、ターゲットの誘導を上手く行うことができます。
顧客の目線を把握できるため、商品の改良ができる可能性もあるでしょう。
5:テストマーケティングを活用して検証する
テストマーケティングを活用して新商品について検証すれば、新商品の競合との違いを広められます。テストマーケティングを行えば、顧客に新商品の特徴についてアピールできます。
さらに、新商品が意図しないターゲットから多くの反応を受けてしまった場合、商品の企画を練り直すこともできるでしょう。
カニバリゼーションを回避した企業事例
カニバリゼーションを回避した企業事例には、ポカリスエットを販売している大塚製薬が挙げられます。大塚製薬はスポーツ飲料製品の飽和による売り上げの低迷に悩んでいました。
しかし、スポーツ飲料の課題と言える糖質等を低減した健康的なスポーツ飲料としてポカリスエットをリ・ポジショニングすることで、カニバリゼーションを回避しました。
出典:ポカリスエット公式サイト|大塚製薬株式会社
参照:https://pocarisweat.jp/
カニバリゼーションを有効活用する方法とは
カニバリゼーションは、基本的には回避しなければ企業に大きな損失を与えてしまいます。しかし、カニバリゼーションを上手く利用すれば企業にとってプラスの結果に繋がる場合もあります。
カニバリゼーションを利用する方法を把握すれば、企業を大きく成長させることができるでしょう。ここからは、カニバリゼーションを有効活用する方法を紹介していきます。
戦略的カニバリゼーションの手法
カニバリゼーションを上手く利用して、企業にとっての利益にすることを「戦略的カニバリゼーション」と言います。戦略的カニバリゼーションが企業にもたらす利益は、「社員への刺激」と「市場における優位性の確保」の2つです。
ここからは、戦略的カニバリゼーションの2つの手法について具体的に説明し、成功した企業例をご紹介します。
同系列の販売組織や流通チャネル同士を競争させる
戦略的カニバリゼーションの手法の1つ目は、同系列の販売組織や流通チャネル同士を競争させるという方法です。企業の衰退を招いてしまう原因の1つには、市場の硬直化があります。
企業内でカニバリゼーションを起こし、「切磋琢磨しあう」状況を生み出せば、他社と競争せずに市場の硬直化を防げるため、一企業が市場を独占した状態でも衰退を阻止できるようになります。
製品ラインナップをより多く揃える
戦略的カニバリゼーションの手法2つ目は、製品ラインナップをより多く揃えるという方法です。同系統の製品を市場に多く出回らせることで、市場を自社商品で独占することができます。
しかし、この戦略的カニバリゼーションは、一定以上の成果を上げつつも同時に損失が発生している事例も存在しているため、注意が必要です。
戦略的カニバリゼーションの企業事例
戦略的カニバリゼーションの企業事例として、トヨタが挙げられます。トヨタは、上記の2つの戦略的カニバリゼーションを利用するために、意図的にカニバリゼーションを引き起こしています。
トヨタは、「トヨタ」「トヨペット」「カローラ」「ネッツ」と、ディーラーを系統ごとに分けた上で同地域内に展開しています。トヨタ系列のディーラー同士でカニバリゼーションを起こし、互いに競争させて品質やサービスの向上を狙っているのです。
さらに、同地域内にトヨタ系列の製品を多数展開することにより、飽和状態を発生させて競合他社が付け入る隙を無くします。その結果、トヨタは地域内のシェアを独占できるようになります。
出典:トヨタ自動車Webサイト|トヨタ自動車株式会社
参照:https://toyota.jp/index.html
マーケティング戦略ではカニバリゼーションを把握しておくことが重要!
カニバリゼーションは、基本的には企業にとって損害となってしまうケースが多いです。売り上げの低迷や社員のモチベーションダウンにより、企業が衰退してしまう恐れもあるでしょう。
回避するための方法は複数存在しますが、中でも、顧客の視点を把握し、企業内の意思疎通を強化しておくことが重要であると言えます。
一方で、カニバリゼーションを有効活用した「戦略的カニバリゼーション」も存在します。戦略的カニバリゼーションにより企業内のモチベーションを逆に上げて商品やサービスの質を向上させたり、地域内のシェアを独占できたりする場合もあります。
一番大切なのは、カニバリゼーションを理解して回避するか、活用するかを判断できるようにすることです。カニバリゼーションを把握し、マーケティング戦略で優位に立ちましょう。